三橋達也氏インタビュー 16
今平と川島さん(1)
**** 今村さんはキネマ旬報などで、
『赤信号』については三橋さんや新珠さんなどの
キャストがよくないといったことを発言されてまして、
いくらか消化不良のようなところが
あったみたいなんですが。
 
三橋

今平のシャシンと川島さんのシャシンは
時代が違うんですよ、世の中がね。

今でこそ、キスなんて何でもないでしょ。
若いのが平気でそのへんでやったりなんかするけども。
当時キスなんてのは、まだ誰もしてないわけですからね。
それを映画の中で初めてやったのが大坂志郎ちゃんね、
『はたちの青春』 (1946・松竹大船)で
幾野道子さんとやったのがそれが最初ですからね。

だから僕が、新珠くんとキスシーンを
やったりしたのなんかだって、みんなもう
スタッフも照れるしね。そういう雰囲気の時ですから。
もう今平がね、『豚と軍艦』 (1961・日活) なんか
撮ってるころには、もうかなりどぎつくても
平気だったんだから。その辺が時代が違うんですよ。

だから、今平が『赤信号』の僕にしても、
新珠くんにしても気にいらないっていうのは、
そんなところまで割り切れてなかったからね。
そういうことじゃないですか。

もっとも、あれは芝木好子さんの原作ですが、
新珠くんは娼婦、洲崎の遊郭の女なんですよ。
それを僕が演じた、義治という米穀組合の会計係が惚れて、
女郎の所に通いつめて、使い込みをしちゃうわけ。
それでクビになっちゃう話ですからね。クビになって、
その退職金をもらって、退職金で彼女を身請けして。

その二人がお金を使い果たして、
この間なくなっちゃった日本橋の白木屋(東急)デパート
の前からバスに乗っかった。もう50円しかなくて、
二人とも話がなんともまとまらなくて、
ぶすっとしたまんま、バスの終点まで行っちゃう。
そこが洲崎なんですよ。
それがあるんでね。だからもっとどぎつくやって
もらいたかったんじゃないですか、今平は。
もっとね、ハダカで抱き合うくらいのことは。

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