三橋達也氏インタビュー 30
川島さんの世俗性
**** 最後にお聞きしたいんですが、
三橋さんは、いろんな映画会社を渡り歩いてきて、
黒沢さん、成瀬さん、稲垣さんといった
いろんな監督と仕事をされてきましたが、
川島さんが、今まで出会った監督の中で
際立って違うところは何ですか。
 
三橋 そうですねぇ・・・。
そういう人たちと違うのは、非常に世俗的なことね。
それが黒沢さんにしても、
成瀬さんにしても、稲垣さんにしても、
川島さんが持ってた、いわゆる世俗的なことは
持ってなかったと思います。
 
**** どの辺で特にそれを感じられますか。
 
三橋

つまり女の、早い話が銀座の女の生態とかね。

成瀬先生なんかそういうものをやってましたよね。
『娘・妻・母』 (1960・東宝) とか、
『女が階段を上る時』 (1960・東宝) とか
やってましたけどね、
あそこまで詳しくなかったと思う。
川島さんは、中へドップリ突っ込んじゃっている。
自分自身がその中へ入っている感じがした。
それだけ、生活が違ってたんです。
 

**** じゃあ、同じ水商売を描くんでも
成瀬さんはドップリつかってないで
あくまで、ある範囲内で見てたと。
 
三橋 いわゆるこっちから観てる、傍観者としての
立場で見ていたような気がするんです、ぼくはね。
だけど川島さんは、自分がその中に
入っちゃってるような気がする。
そのくらい、視点が違うような気がする。
 
**** だから水商売での女の反目、
たとえば、女のけんかのシーン
みたいのはうまいですね。
 
三橋 そうかもね。だから若尾(文子)くんの、
『女は二度生まれる』 (1961・大映東京) かな、
芸者のあれなんかを見ると、特にそうだね。
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